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車高調のプリロード調整に関する基本的な知識と計算方法

全長調整式(フルタップ式)の車高調の場合、部品交換なしにユーザーが調整可能な項目は以下の3つ。

  • 車高調整
  • 減衰調整
  • プリロード

車高と減衰はなんとなくわかりやすいが、プリロードはちょっと分かりづらい。なのでここではプリロード調整に関する基本的な知識を書く。

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プリロードとは

サスペンションセッティングにおけるプリロード(preload)とは「あらかじめスプリングに掛ける負荷」のことを指す。日本語で「与圧」と言ったりもする。

具体的な車高調で示すと、スプリングを支えているスプリングシートを回転させ、スプリングを自由長(無負荷状態での長さ)から縮めることを「プリロード」と呼んでいる。

「プリロードを掛けるとスプリングが固くなる」は誤解

よく「プリロードを掛けるとスプリングが固くなる」と考えている人がいるが、これは誤解がある。車高調キットに一般的に使われている直巻シングルレートスプリング(1本のバネで1つのばね定数を持つ物)ではその認識は正しくない。

5kgf/mmのばね定数を持つスプリングにプリロードを掛けると5.5kgf/mmや6kgf/mmになることは無く、あくまでも5kgf/mmのまま。シングルレートスプリングのばね定数は縮んだ量に関わらず一定のため。(※厳密には微妙に変わるが無視できる程度)

樽型などのバリアブルレートスプリングの場合の話はややこしいので、ここではシングルレートスプリングの話に限定する。

プリロードを掛けるとスプリングが縮み始める重さが変わる

ここで5kgf/mmのスプリングに5kgずつ重りを積んでいくときのことを考える。

プリロードが0mmの時、5kgの重りを積むと1mm縮み、10kgで2mm、15kgで3mm、20kgで4mm・・・と順々に縮んでいく。50kg積んだ時は50kg÷50kgf/mm=10mm、100kg積んだ時は100kg÷5kgf/mm=20mm縮む計算になる。

ここでプリロードを10mmかけたとする。10mmのプリロードに対してスプリングは元に戻ろうとする力が働くが、この力は5kgf/mm×10mm=50kgfと計算される。

この時、重りを5kg積んでも10kg積んでもスプリングは縮まない。なぜなら50kgfの力で元に戻ろうとしているから。50kg積んだときにちょうどその力と釣り合いが取れ、55kg積むと1mm縮む。以降は60kgで2mm、65kgで3mm・・・と続く。

参照:HYPRERPRO サスペンションセッティングについて

つまりプリロードを掛けると、スプリングが縮み始める重さが変化する。

ただしプリロードを掛けた分以上の力がかかる時、スプリングが縮む全長(プリロード長も含めたスプリングが縮んだ長さ)は、プリロードを掛ける前と変わらない

プリロードを掛ける前後でスプリングの縮む全長が変わらないことの証明

スプリングのばね定数をK、スプリングに掛かる力をF、スプリングが縮んだ長さをXをすると、

F=KX

X=F/K

となる。ここでプリロードZをかけた時、プリロードによってスプリングに加わった力Fz

Fz=KZ

と表される。この状態からFzよりも大きい力F1がスプリングに加わった時、プリロードを除いたスプリングの縮みX1

X1=(F1-Fz)/K
=F1/K-Fz/K
=F1/K-Z

この時、プリロードを含むスプリング全体の縮みX2

X2=X1+Z
=(F1/K-Z)+Z
=F1/K

となる。これはプリロードがない状態でF1の力が加わったときと同じ。故にプリロードを掛ける前後でスプリングの縮む全長は変わらない。

プリロードはピストンの位置を移動させる

スプリングの硬さは変わらない、スプリングの動き始める重さが変わるだけなら、プリロードは何に影響を与えているのか?

答えは、「プリロードは1G状態でのダンパーの初期位置に影響する」。ここでの1G状態とは「車が地面に完全に接地して静止している状態」のことを指す。

ここで100mmのストローク長を持つダンパーに、5kgf/mmのばね定数のスプリングを組み合わせた時のことを考える。このダンパーには1G状態で300kgfの力が加わるとする。

300kgfの力が5kgf/mmのスプリングに加わるので、スプリングの縮みは300÷5=60mmとなる。つまり1G状態でダンパーの伸びストロークは60mmで、縮みストロークは100-60=40mmとなっている。

ここにプリロードを10mm掛けると、スプリングには10×5=50kgfの負荷がかかった状態になる。ここで300kgfの力が加わった時、プリロードを除くスプリングの縮みは

X1=(300-50)/5=50mm

となる。当然だが0G状態(車が地面に全く接地していない状態)の時は、プリロードの有無にかかわらずダンパーのストローク長は100mmで変わらない。

つまりプリロードがかかった今は、1G状態でダンパーの伸びストロークは50mmで、縮みストロークは100-50=50mmとなる。ダンパーの初期位置がプリロード分だけ変化した。

プリロードによってピストンの位置が移動する

計算式

スプリングのばね定数をK、1Gでスプリングに掛かる力をF、スプリングが縮んだ長さをXとする。またダンパーのストローク長をS、ダンパーの伸びストローク長をA、縮みストロークをB、プリロードをZとする。

X=F/K-Z
S=A+B
A=X

が成り立つので、縮みストロークBは

B=S-A
=S-F/K-Z

プリロード量とダンパーの初期位置変化量は同一

上の B=S-F/K-Z の式から分かるように、プリロードを調整した長さと全く同一の長さだけダンパーの位置は変化する

仮に10mmだけダンパーの初期位置を変えたければ10mmプリロードをかければ良い。この関係性にスプリングの硬さ(ばね定数)は影響しない。

車高も変わる

プリロードを掛けるとダンパーの初期位置が変わるので、当然車高も変わる

レバー比1.00のサスペンションでプリロードを10mm掛けると、車高は1.00×10=10mm上がる。レバー比1.50のサスペンションでプリロードを10mm掛けると、車高は1.50×10=15mm上がる。

計算式

レバー比をL、プリロードをZとすると、上昇する車高Hは

H=LZ

初期位置が変わると耐荷重が変わる

ダンパーの初期位置が変わると、ショックアブソーバー全体の耐荷重が変化する。

先ほどと同じ100mmのストローク長を持つダンパーに、5kgf/mmのばね定数のスプリング、1Gで300kgfの荷重で考えてみよう。

プリロードが0のとき、ダンパーの縮みストロークは40mmだった。残り40mmで5kgf/mmのスプリングが耐えられる荷重は40mm×5kgf/mm=200kgf。これは200kgf÷400kgf=0.5Gの余力しか残されていないことを示している。

プリロードを10mmかけた時、縮みストロークは50mmだった。スプリングが耐えられる荷重は50mm×5kgf/mm=250kgf。250kgf÷400kgf=0.625Gの余力が出た。プリロードの分だけ強い力に耐えられる状態になった。

計算式

縮みストロークBにより残される耐荷重をF2、それによる余力をGとすると、

F=BK
G=F2/F

これより、

G=F2/F
=BK/F
=(S-F/K-Z)/F
=(S-Z)F-F2/K

プリロードはかけすぎ厳禁

プリロードはかければかけるほど良いものではない。むしろ一般的に車高調に使われる直巻スプリングの場合、かけすぎると逆効果になる場合がほとんど。5mm~10mm程度のプリロードが基本的に限度で、15mm以上掛けると乗り心地の悪化やスプリングの破損に繋がる恐れがある。

直巻スプリングに過度なプリロードを掛けると破損する場合がある。なぜならスプリングには許容ストロークがあるため。

スプリングの許容ストロークを考慮する必要がある

スプリングには必ず許容ストロークがある。許容ストロークを超えてスプリングが縮むと、元の長さに戻らなくなったり、最悪の場合破断する。

許容ストロークが公開されていないスプリングもあるが、ここではLARGUS RSスプリングを例に取ってみる。

参照:LARGUS RSスプリング

一番上にある自由長100mm、ID62、バネレート6Kのスプリングを例にする。このスプリングの許容ストロークは57mmだ。6K×75mm=342kgfなので、許容荷重はそれよりわずかに小さい340kgfとされている。

ダンパーのストローク量が50mmある車高調にこのスプリングを組み、20mmのプリロードをかけたとする。強い衝撃が加わってダンパーがフルストロークしたとき、スプリングは50+20=70mm縮むことになる。これは完全に許容荷重を超えているので、スプリングは元の自由長に戻らなくなってしまう。

もしもプリロードをかけていなければ、フルストロークしても7mmの余裕があるのでスプリングの破損には繋がらなかった。だからスプリングの許容ストロークを考慮しなければならないし、プリロードはそれを超えない範囲で設定する必要がある。

プリロード調整でスプリングセッティングの幅が広がる

プリロードに関しての話をまとめると以下の通り。

  • プリロードでスプリングの硬さは変化しない
  • プリロードでダンパーの初期位置を変更できる
  • プリロードで車高が変わる
  • プリロードでショックアブソーバーの耐荷重が変わる
  • プリロードはかけ過ぎ注意

プリロードはかければ良いというものではないが、乗り心地を重視して柔らかめのスプリングを使いたいときなどには有効。適切なプリロードをかければ耐荷重と伸びストロークを両立できるようになる。

逆にサーキットユーザーなどで硬いスプリングを使っている場合はプリロードゼロが基本になる。ただしヘルパースプリングやアシストスプリングを使っている時はこの限りではない。詳しくは↓を参照。

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