サーキットやジムカーナで速く走るためだったり、超車高短車で亀るのを回避したいなどの目的で、車高調にヘルパースプリングやアシストスプリングをいれる場合があるだろう。自分の知る範囲内でそういう時のセットアップに関しての基本的な知識を説明する。
ヘルパースプリング/アシストスプリングとは
まずヘルパースプリング/アシストスプリングとは何か?これはメインスプリングに重ねて使うサブスプリングのことを指す。めんどくさいのでこれ以降は特に区別する必要のない時以外は「サブスプリング」と呼称する。
一般的にヘルパースプリングとアシストスプリングの違いは以下の通り。
ヘルパースプリング | アシストスプリング |
---|---|
2kgf/mm以下の低レートスプリング。 1G状態で線形密着させて使用する。 | 2kgf/mm以上のスプリング。 基本的に1G状態で線形密着させる。 ハイレートなスプリングを使って線形密着させない場合もある。 |
明確な定義はないが、スプリングレート(ばね定数)の違いで呼び名が変わっている様子。ちなみにアシストスプリングの方はメーカーによってテンダースプリングだとかトラクションスプリングだとか様々な呼び名があったりするが、これまた面倒なのでここでは全部アシストスプリングで統一する。
どちらも基本的には1G状態(車が地面に完全に接地して静止している状態)で線形密着(スプリングがそれ以上縮まなくなる状態)させて使用する。なので基本的にメインスプリングよりも柔らかく短いスプリングが多い。1Gで線形密着しないぐらいハイレートまたは長いバネが無いわけではないが、数としては少ない。
前提:サブスプリングは必要な人以外は要らない
大前提としてだが、メインスプリングだけで事足りている人や状況の場合、サブスプリングなんて全く必要ではない。むしろサブスプリングを入れることで状況が悪化することのほうがあり得る。
サブスプリングがあるといいかもしれない人は、例えばこんな人。
- そこそこ頑張ってサーキット走行やジムカーナをしているが、もっとトラクションがほしい人(特にFF車)
- そこそこ頑張ってサーキット走行やジムカーナをしているが、オープンデフなのでもっと伸びストロークがほしい人
- ハイレートスプリングを入れた超車高短車に乗っているが、段差で亀るので伸びストロークがほしい人
- 訳あってメインスプリングを遊ばせている人
サブスプリングが必要ない人は、例えばこんな人。
- 純正サスペンションの車両
- 車高調を買ってきた状態(吊るし)のまま使っている人
- サーキット走行用にバチバチにセットアップされたショートボディの車高調を使っている人
- 車高調のセッティングって何?減衰と車高以外に何するの?という人
- サブスプリングを入れると伸びストロークが増えるんでしょ?っていう人
特に街乗り用などに販売されている車高調を吊るしのまま使っている人は、サブスプリングを使うとほぼ確実にダンパーを破壊することになる。
ヘルパースプリングで伸びストロークが伸びる?
「ヘルパースプリングを入れると伸びストロークが伸びるんでしょ?」
という認識は間違ってはいないが、正しく理解しないと危ない。
そもそも”伸びストローク”というのは0Gから1Gまでの間に縮んだストローク量と同じなので、メインスプリングを柔らかくすればこれは伸びるし、逆に硬いバネにすれば短くなる。
ただしストロークの全体量はダンパーのストローク長で決まってしまっている。
例えばストローク長100mmのダンパーがあり、あるバネを組むと1Gで50mm縮むとする。この時は伸びストロークが50mmで、縮みストロークは100-50=50mmある状態。
これに作動長50mmのとても柔らかいヘルパースプリングをプリロードゼロで組んだとすると、1Gで50+50=100mm縮むことになる。伸びストロークは確かに100mmになったが、反面として縮みストロークは100-100=0mm。すでにダンパーは底突きしていて、ちょっとした段差でも乗り越えようもんなら激しい衝撃がドライバーに襲いかかり、ダンパーどころか車体がお釈迦になるだろう。
逆に1Gで10mmしか縮まないような非常に硬いバネを組んでいるところに同じヘルパースプリングを組むと、伸びストロークは10+50=60mmとなり、縮みストロークも100-60=40mm確保できる。メインスプリングの硬さはさておき、これならダンパーが底突きする恐れは少ないし、伸びストロークも確保できるので、ちょっとした凹凸で亀ることはいくらか減るはず。
つまりサブスプリングを組む必要のあるのは、1G状態で十分な伸びストロークが確保できないほど硬いスプリングを入れた場合だけ(もしくは異常にストローク長が長いダンパーを使っている場合)。サーキットでのタイムを追い求めるがあまりスプリングがどんどん硬くなっていった人か、あるいは車高調での限界シャコタンに拘ってスーパーハードなスプリングを入れた人がそれに当たる。逆に車高調キット標準などの柔らかいスプリングを使っている場合、ダンパーの底突きが発生してダンパーが破損する恐れがある。
普通に街乗りしている人が付けてはいけない訳では無いが…特殊な場合を除き付ける必要がないはず。
サブスプリングセッティングの基本的な知識と計算方法
バリアブルレート化する
サブスプリングとメインスプリングを重ねると、スプリングレート(ばね定数)の違う2本のスプリングが直列に接続されることになる。またサブスプリングは一定の荷重が加わると線形密着するので、そこから先はメインスプリングだけが動作することになる。つまりサブスプリングの線形密着前後でスプリングレートが変化する。
このような複数のスプリングレートを持つスプリングのことをバリアブルスプリングという。純正サスペンションに装着されているスプリングは不等長ピッチなどにより1本のスプリングで複数レートを持たせている。2本以上のシングルレートスプリングを重ねることで、擬似的にバリアブルスプリングを再現させることができる。
合成ばね定数の計算方法
ばね定数の異なる2本のスプリングを直列に接続して、これを1本のバネとみなした時のばね定数を合成ばね定数Kと呼ぶ。スプリングの重量を無視して、メインスプリングのばね定数をKm、サブスプリングのばね定数をKsとする。
ある荷重Fが加わったときにメインスプリングが縮む長さをX1、サブスプリングが縮む長さをX2とする。するとスプリング全体の縮む長さXは、
F=KmX1
F=KsX2
X=X1+X2
と表される。これはメインスプリングがサブスプリングからかかる力と、サブスプリングがメインスプリングから受ける力が釣り合う作用反作用の法則が成り立つため。
ここから、合成ばね定数Kは、
1/K=1/Km+1/Ks
↓
K=KmKs/(Km+Ks)
と計算できる。
メインスプリングのばね定数が8kgf/mm、サブスプリングが2kgf/mmのとき、合成ばね定数は
合成ばね定数K=8×2÷(8+2)=1.6kgf/mm
となる。合成ばね定数は元の2つのばね定数よりも小さくなる点がポイント。
サブスプリングが線形密着する前の振る舞い
サブスプリングが線形密着するまで~線形密着した瞬間までのことを考える。
サブスプリングがちょうど線形密着する荷重をF1とする。この時、サブスプリングの縮む長さX2は次のように表される。
F1=KsX2
↓
X2=F1/Ks
このX2=F1/Ksはサブスプリングの有効ストローク長である。これをSとする。
S=F1/Ks
注意が必要なのは、この時メインスプリングにもF1の力が加わっているので、その分の縮みが発生していること。この時のメインスプリングの縮む長さはX1は
F1=KmX1
↓
X1=F1/Km
これから、2本のスプリング全体が縮む長さY1は、次のようになる。
Y1=X1+X2
=F1(1/Km+1/Ks)
=F1/K
つまり2本のスプリングは合成ばね定数Kを持つ1本のスプリングのように振る舞う。
メインスプリングのばね定数が8kgf/mm、サブスプリングが2kgf/mm、サブスプリングの密着荷重が100kgfで、サブスプリングがちょうど線形密着した時、全体の縮んだ長さY1は
合成ばね定数K=8×2÷(8+2)=1.6kgf/mm
サブスプリングの縮みX2=100÷2=50mm(=有効ストローク長)
メインスプリングの縮みX1=100÷8=12.5mm
全体の縮みY1=100÷1.6=62.5mm(=12.5+50)
となる。サブスプリングが線形密着する前でもサブスプリングだけが縮むのではなく、メインスプリングも同時に縮んでいる点に注意。
サブスプリングが線形密着した後の振る舞い
F1から更に力F2を加え、サブスプリングが線形密着した後の振る舞いについて考える。
今スプリングに加わっている力をFxとすると、次のように表すことができる。
Fx=F1+F2
まずサブスプリングはF1で線形密着して、それ以上は縮まないので、サブスプリングの縮む長さは
X2=F1/Ks=S
で、先程と変わらない。この時、メインスプリングには作用反作用の法則から、サブスプリングから力F1がかかり、更に追加された力F2もかかっている。このため、メインスプリングの縮む長さX1は、
X1=F1/Km+F2/Km
=(F1+F2)/Km
=Fx/Km
となる。このことからサブスプリングの有無にかかわらず、メインスプリングは加わった荷重のみに応じて縮むことが分かる。
よって全体の縮む長さY2は、次のようになる。
Y2=X1+X2
=Fx/Km+S
すなわち、サブスプリングが線形密着した後はメインスプリングのばね定数のみが影響する。
メインスプリングのばね定数が8kgf/mm、サブスプリングが2kgf/mm、サブスプリングの密着荷重が100kgfとする。200kgfの力がかかった時、全体の縮んだ長さY2は以下のように求められる。
サブスプリングの縮みX2=100÷2=50mm
メインスプリングの縮みX1=200÷8=25mm
全体の縮みY2=25+50=75mm
となる。サブスプリングは密着荷重までしか縮まないが、メインスプリングは常に加わった力の分だけ縮む。
サブスプリングを任意の作動長にするためにプリロードをかけた時
Sの有効ストローク長を持つサブスプリングにプリロードをかけ、サブスプリングが機能する長さ(=作動長)をS’にした場合について考える。
プリロードによりサブスプリングに掛かる力F3は
F3=(S-S’)Ks
となる。この力F3はメインスプリングにも加わっているので、メインスプリングの縮みX1‘は
X1‘=F3/Km
=(S-S’)Ks/Km
よって全体のプリロードZは
Z=X1‘+(S-S’)
となる。
メインスプリングのばね定数が8kgf/mm、サブスプリングが2kgf/mm、サブスプリングの密着荷重が100kgf(=有効ストローク50mm)とする。サブスプリングの作動長を20mmに設定する時、スプリング全体を縮めた量Zを求めたい。
サブスプリングの作動長が20mmになったので、サブスプリングには
50-20=30mm
のプリロードがかかっている。このプリロードによってサブスプリングに掛かる力F3は
F3=30×2=60kgf
F3と同じ力がメインスプリングにもかかるので、メインスプリングの縮みX1‘は
X1‘=60÷8=7.5mm
よってスプリング全体の縮みZは
Z=30+7.5=37.5mm
ここから先はプリロードがかかっているスプリングとほぼ同じ動きをする。プリロードによってかかった力以上の力がかかる時、プリロードの有無にかかわらず、スプリング全体の縮み量は変わらない。故にサブスプリングは、プリロードの有無にかかわらず密着荷重F1以上で線形密着する。
F3よりも小さい力がかかる時、スプリングは縮まない。
F3よりも大きく、サブスプリングの密着荷重F1よりも小さい力F4がかかる時、合成ばね定数Kのスプリングとして振る舞う。プリロードZ分の長さを除いた全体の縮みY3は次のように計算される。
Y3=(F4-F3)/K
サブスプリングの密着荷重F1よりも大きい力F5がかかる時、サブスプリングは線形密着し、メインスプリングのばね定数Kmのスプリングとして振る舞う。プリロードZ分の長さを除いた全体の縮みY4は次のように計算される。
Y4=S’+(F5-F3)/Km
メインスプリングのばね定数が8kgf/mm、サブスプリングが2kgf/mm、サブスプリングの密着荷重が100kgf(=有効ストローク50mm)とする。サブスプリングの作動長を20mmになるようにプリロードを掛けた。ここに200kgfの力をかけた時、プリロードを分を除くスプリング全体の縮みY4を求める。
プリロードによってメイン・サブスプリングに掛かる力F3は
F3=(50-20)×2=60kgf
サブスプリングの線形密着荷重以上の力が加わっているので、サブスプリングは線形密着する。故に全体の縮みY4は
Y4=20+(200-60)÷8
=20+17.5
=37.5mm
サブスプリングを使う時の基本的な知識まとめ
というわけでサブプリングを使う時の基本的な知識をまとめる。
- 「サブスプリングを入れると伸びストロークが伸びる」は正しいが、注意が必要
- 十分に硬いメインスプリングを入れている場合にのみサブスプリングを使うことができる
- サブスプリングが線形密着する前は、合成ばね定数Kのスプリングとして振る舞う
- 合成ばね定数はメイン・サブスプリングのばね定数よりも小さくなる
- サブスプリングが線形密着した後は、メインスプリングのばね定数のみが影響する
- プリロードを掛けると合成ばね定数Kに応じた力がメイン・サブスプリングの両方に加わる
- サブスプリングの密着荷重を超えた力が加わった時、サブスプリングはプリロードの有無に関わらず線形密着する
サブスプリングは正しく理解して使えば求める動きを実現することができるかもしれないが、間違って使うとダンパー破損の恐れがある。サブスプリングは使い所が難しいので、適当な知識で使うと痛い目に合うかもしれない。
サブスプリングの具体的な使い方についてはそのうち書きます。
例題1
かかる力300kgfはサブスプリングの密着荷重50kfgよりも大きいので、サブスプリングは線形密着する。サブスプリングの縮みX2は
X2=F1/Ks=50÷1=50mm
メインスプリングの縮みX1は
X1=Fx/Km=300÷15=20mm
よって伸びストロークY2は、
Y2=X1+X2=20+50=70mm
A:70mm
例題2
サブスプリングの有効ストロークSは
S=F1/Ks=50÷1=50mm
サブスプリングの作動長が30mmなので、サブスプリングにかかる力は
F3=(S-S’)Ks=(50-30)÷1=20kgf
1Gで掛かる力300kgfはサブスプリングの密着荷重より大きいので、サブスプリングは線形密着する。よって1Gでスプリング全体が縮む量(=伸びストローク)は、
Y4=S’+(F5-F3)/Km
=20+(300-20)÷15
≒38.7mm
A:38.7mm
例題3
サブスプリングの密着荷重330kgfよりもかかる力300kgfのほうが小さいので、今回サブスプリングは線形密着しない。つまり合成ばね定数Kの1本のスプリングように振る舞う。
合成ばね定数Kは、
K=KmKs/(Km+Ks)
=(15×22)÷(15+22)
=330/37
≒8.92kgf/mm
よって伸びストロークY1は
Y1=F1/K
=300÷(330/37)
≒33.64mm
A:33.64mm
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