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ヘルパー/アシストスプリングの具体的な選び方と使い方

↑でヘルパースプリングやアシストスプリングを使って車高調をセッティングする時の基本的な知識について解説したので、今回は「じゃあ具体的にどうやって選んで使うの?」というところについて書き起こす。

なお、僕も試したことは少ないので、あくまでも自分の経験則や知識、また人から聞いた話、調べた話などを元に書いていく。あくまでも僕のメモ書きなので、間違っている場合もあると考えて参考程度に。

また、以降はヘルパー/アシストスプリングのことは、特別に使い分ける必要が無い限り「サブスプリング」と呼ぶ。

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サブスプリングの上下について

サブスプリングをメインスプリングの上に組むべきか、下に組むべきかという話題がある。個人的には「どっちでも良いが、サブスプリングが上の方が無難」と考える。

「どっちでも良い」のは、理論上はどちらが上でも効果に影響がないから。基本的な知識に書いた全ての数式上でサブスプリングが上か下かなんて全く出てこないことからも分かる通り、理論上はどちらでも良い。

ただし、この理論は”スプリングの重量を無視する”という前提がある。実際のスプリングには重量があり、ほぼすべての場合においてサブスプリングよりもメインスプリングのほうがずっと重い。だからサブスプリングをメインスプリングの下に置くと、メインスプリングの自重でサブスプリングが潰れてしまう。車両が1G状態になればどうせ密着するのだが、完全にプリロードゼロで組んだ場合、荷重が抜けたときにサブスプリングが潰れて、スプリングが暴れる可能性がある。

実際にやってみると分かるが、サブスプリングを下にすると思ってる以上にサブスプリングがたわむ

プリロードを掛けたとしてもメインスプリングの自重でサブスプリングに負荷がかかっているのは事実で、その分だけ想定していない余計な動きが発生する。車両重量に比べればメインスプリングの重量なんて微々たるものなので影響としては少ないはずだが、自分がどちらかに決めるなら「サブスプリングが上」にする。

また重量等の関係から1kgf/mm以下の非常に柔らかいヘルパースプリングは必ず上に組む必要がある。

作動音や異物の噛み込み、作動長の測りやすさなど重視するポイントでも変わる

サブスプリングは1G以下あるいは1G+αの領域で線形密着する特性上、密着時に音が鳴る。当然アッパーシート(車体側)に近いと作動音が聞こえやすい。なのでそれが嫌な場合は下側に組んだほうが良い。またセッティング出しのために頻繁にプリロードを変更したい時、サブスプリングの作動長を測るのは下側にあったほうが楽。

ただし、スプリングには砂や小石などの異物が挟まる可能性がある。特にサブスプリングは線形密着するので挟まりやすいが、その可能性は上側にあるときのほうが少ない。

サブスプリングの硬さについて

サブスプリングは2kgf/mm以下の「ヘルパースプリング」と、それ以上の「アシストスプリング」に分かれる。基本的な考え方として、

  • ヘルパースプリング→バネの遊びを埋める、または伸びストロークを有効活用するために使う
  • アシストスプリング→速く走るためのセッティングパーツとして使う

という認識で良いと思う。あまり名称に捕らわれること無く、実際のばね定数と密着荷重で考えるべきだろう。

非常に柔らかいヘルパースプリング

市販されている0.2kgf/mmや0.3kgf/mmなど非常に柔らかいヘルパースプリングは、メインスプリングの遊びを埋めるものとして使う。ねじ式車高調の場合や、フルタップ式車高調にハイレートスプリングを入れて車高が落ちなくなったときに、バネを遊ばせる代わりに使うもの。

これらの手で押しつぶせるぐらい低いレートのスプリングは、反発力がほとんど無いがゆえにダンパーの減衰力に勝てないので、「積極的にダンパーを伸ばす」働きはない。入れたとしてもバネが遊んでいる状態に近い。なので「バネを遊ばせている時の動きを求めているが、バネが遊ぶのが嫌だ」という人が選ぶべき。

プリロードを掛けて使ってもメインスプリングにほぼ影響を与えないのが最大のメリット。

1kgf/mm前後のヘルパースプリング

市販されている1kgf/mm前後のヘルパースプリングは、ダンパーの伸びストロークを有効に使うために用いられる。主に街乗りをベースに考えるならこの辺りのヘルパースプリングが適している。

これ以下の柔らかいスプリングよりも反発力があるので、ダンパーの減衰力に勝ち始める。強烈なブレーキングなどでリア荷重が抜けた瞬間や、大きな段差で従来ならタイヤが地面から離れてしまう場合に、タイヤを地面に押し付ける力が出始めてくる。タイヤが浮くようなシチュエーションでも地面から離れづらくなるため、結果的に乗り心地や操縦安定性がする。ただし突き上げ方向にはメインスプリングのレートのみが働くため、純正サスペンションのような乗り心地になるわけではない。

とはいえヘルパースプリングのレート自体は柔らかいため、特にスポーツ走行などでダンパーの減衰力を上げた場合は、それに負けがち。ヘルパースプリングが働き始める領域ではふわふわした、浮いたような感触になるはず。ジムカーナなど激しいスラローム走行ではキビキビとした走りができなくなってくる。

2kgf/mm以上のアシストスプリング

2kgf/mm以上のアシストスプリングは速く走るためのセッティングパーツとしての活用法が出てくる。市販されているものでは2・3・4・5kgf/mmぐらいのものがメジャーだが、中には7・10・20kgf/mmなどハイレートなものも存在する。

この領域のばね定数の選び方は密着荷重の項目で説明する。

また、例えば10kgf/mmのメインスプリングに10kgf/mmのサブスプリングをつけると、合成ばね定数は5kgf/mmになる。このサブスプリングが1Gで線形密着しないとすれば、ちょっとした入力があるまでは5kgf/mmのバネとして振る舞うので、もしかすると乗り心地が改善されるかもしれない。

密着荷重について

サブスプリングが線形密着するまでに必要な力を密着荷重と呼ぶ。これは

密着荷重(kgf)=ばね定数(kgf/mm)×有効ストローク長(mm)

で計算される。有効ストロークは

有効ストローク(mm)=自由長(mm)-密着長(mm)

で計算できる。密着長はサブスプリングが線形密着した時の全長のこと。

密着荷重の前後でレートが切り替わる

ヘルパー/アシストスプリングを使って車高調をセッティングする時の基本的な知識と計算方法で書いたように、密着荷重以下ではサブとメインの合成ばね定数のスプリングとして振る舞い、密着荷重以上ではメインのばね定数のスプリングとして振る舞う。つまり密着荷重の前後でメインばね定数↔️合成ばね定数へとレートが切り替わる。これはプリロード調整をしても変わらない。

ここでSwiftのヘルパー/アシストスプリングを例に取ってみる。なんだか密着荷重の計算が合わないが、そう書いてあるのでそうだとする。これらのサブスプリングに10kgf/mmのメインスプリングを組み合わせた時の合成ばね定数も並べると、以下のようになる。

サブスプリングの
ばね定数
(kgf/mm)
有効ストローク長
(mm)
密着荷重
(kgf)
10Kメインとの
合成ばね定数(kgf/mm)
1.541701.30
4411552.86
6412603.75
参照:Swift アシストスプリング

仮にこのスプリングに1Gで300kgfの荷重がかかるとする。何らかの理由で荷重が抜けていく際に、サブスプリングが6kgf/mmでは300-260=40kgfの荷重が抜けた時に3.75kgf/mmにレートが変化する。同じく4kgf/mmでは145kgf、1.5kgf/mmでは230kgfが抜けたときにレートが変わる。つまりサブスプリングの密着荷重が高ければ高いほど早いタイミングで合成ばね定数に移行し、低ければ低いほどタイヤが地面から離れるギリギリまでメインスプリングのレートが生きる。

なのでどのタイミングでレート変化させたいかによって密着荷重を選ぶ。

サブスプリングの有効ストローク長/作動長について

有効ストローク長はサブスプリング単体で線形密着するまでの長さのこと。自由長が70mmで密着長が20mmのサブスプリングは、70-20=50mmの有効ストローク長を持っている。

作動長とは実際のダンパーに組み込んだ状態でサブスプリングが線形密着するまでの長さのこと。

プリロードゼロのときは作動長=有効ストローク長。

作動長はプリロードで調整できる

サブスプリングの作動長は車高調のプリロードで調整できる。例えば有効ストローク長50mmのサブスプリングを作動長20mmとして使いたい場合、サブスプリングに対して30mmのプリロードをかければ良い。

ただしこの場合はメインスプリング・サブスプリングの両方にプリロードに応じた負荷がかかっている。サブスプリングの作動長だけを調整することは不可能

とにかく車高を下げたい人

とにかく車高を下げたい人は、自分の車高調のストローク長と、メインで使いたいスプリングの硬さに応じたものを選べば良い。

例えばダンパーに掛かる荷重が300kgfの車の場合、ストローク長60mmのダンパーに50kgf/mmの超硬いスプリングを選択したら、1Gでメインスプリングは300÷50=6mmしか縮まないことになる。2~3Gぐらいはスプリングだけで耐えてほしいので、仮に縮み側に6mm×3G=18mm用意したいとなれば、伸び側は60-18=42mmあれば良い。

なので50mmぐらいの有効ストロークを持つ1kgf/mm前後のヘルパースプリングを装着して、ヘルパーに対して8mmのプリロードをかけて作動長を42mmにすれば良い。このときメインスプリングには

(1kgf/mm × 8mm)÷ 50kgf/mm =0.16mm

のプリロードがかかる。ほぼ誤差の範囲と言っても良い。

乗り心地を良くしたい人

純正ショックアブソーバーにしてください。もしくは車高調キット標準スプリングにプリロードを掛けて使ってください。

メインスプリングをかなり固くしていった結果伸びストロークが無くなった人は、伸びストロークの増加によって乗り心地が良くなる可能性がある。

伸びストロークが欲しい人

今より伸びストロークが欲しい人だけの人は、1kgf/mm前後のヘルパーを使って、欲しいストローク以上の有効ストロークを持つサブスプリングを選べば良い。

例えば今より20mmの伸びストロークが欲しいとする。有効ストローク50mmで1kgf/mmのヘルパースプリングを選んだ時、ヘルパースプリングに掛かる負荷は

(50mm – 20mm) × 1kgf/mm = 30kgf

となる。この時のメインスプリングが10kgf/mmだとすれば、メインスプリングに

30kgf ÷ 10kgf/mm = 3mm

のプリロードをかけているのと同じ状態。これぐらいであれば全く問題のないレベル。

ただしダンパーに残された縮みストロークが十分に足りているかどうかは注意が必要。

サーキット走行をする人

サーキット走行をする人は頭をひねったり実走行によるテストを重ねなければ速いかどうかが判断できない。基本的にサブスプリングを入れる目的は駆動輪のトラクション確保だと思うが、それに必要な作動長は各々の車によって異なる。

個人的に思う理想の作動長は10~20mm

実際のところ必要な作動長は足りない伸びストロークと同じ。なので自分のほしい伸びストロークが何mmなのか?残りの縮みストロークでメインスプリングをハイレート化していった結果無くなっていった伸びストロークはせいぜい10~15mm、長くても20mmぐらいのはず。

なので作動長20mm前後のサブスプリングをプリロード調整して試しながら使うのが一番単純で良いと考える。ただ不思議なことに、これぐらい短い作動長のサブスプリングは世の中にほとんど無い。

有効ストローク長の長い、レートの高いアシストスプリングは使いづらい?

世の中のサブスプリングの大半は「バネを遊ばせない」という目的のためか有効ストローク長が40~50mmぐらいのものが多い。が、今の主流である全長調整式の場合はそんな悠長にストロークは取れないことがほとんど。

となるとプリロードをかけて作動長を短くする必要がある。例えば4kgf/mmで作動長40mmのアシストスプリングを作動長15mmまで縮めるとする。プリロードによりアシストスプリングにかかる力は(40-15)×4=100kgfで、当然メインスプリングにも同じ負荷がかかる。メインスプリングが14kgf/mmだった場合、メインスプリングに100÷14≒7.1mmのプリロードがかかる。

普通は14kgf/mmのスプリングに5mm以上のプリロードをかけることは無い。当然伸びストロークも減るので、タイヤが地面から離れがちで、全体的に挙動がおかしくなるはず。

例えば重量級かつハイスピードで、サーキットユースではスプリングレート20~30kgf/mmは当たり前なR35 GT-Rみたいな車種であれば、ハイレートで作動長の長いアシストスプリングがプリロードを多少かけても使えるだろう。もしくはサーキット走行のみを想定してバンプラバーを積極的に生かしたセットアップをするか。

ただそうでない場合…全長調整式でストロークがあまり取れず、せいぜい10~20kgf/mmぐらいのメインスプリングの場合、作動長が長くレートもそこそこ高いアシストスプリングは使い所が難しいと思う。伸びストロークが増えすぎると速く走るのに支障が出てくる場合があるので、プリロードゼロに近い状態で使うのもまた難しい。

サーキット走行においてサブスプリングは駆動輪に使うのが基本

サーキット走行においてサブスプリングは基本的に駆動輪のあるショックアブソーバーに使う。FFならフロント、FRならリア、AWDなら全部に使っても良い。なぜなら駆動しているタイヤを地面に設置させるのが一番の目的だから。特にFF車は速度が上がるとトラクション不足に悩まされがちなので、フロントにサブスプリングを入れるのは効果的なはず。

とはいえ目的によっては駆動輪以外にサブスプリングを入れれば、その分タイヤが地面に設置して総グリップが上がりやすくなるなどのメリットもある。でもFR車のフロントはそこまで伸びストロークが必要ないし、FF車のリアはあえてインリフトさせることで意図的に旋回性を上げるセッティングもある。必ずしも4輪全てにサブスプリングを導入したからといって良い方向になるとは限らない。

単純に街乗り車両で伸びストロークがほしいだけの場合は4輪全てに入れて良い。

作動長は15mmからスタート

オーリンズサスといえばここ!と言えるサスペンション専門ショップElegant Sport Azurさんによれば、アシストスプリングはまず作動長15mm前後からスタートして、その後10mmと20mmを試して方向性を探るのが良いとのこと。もし15mmより20mmが良ければ、さらに25mmまで試すのがよいそう。

サブスプリングのデメリット

縮みストロークが減る

サブスプリングにより伸びストロークが増えれば、縮みストロークが減る。車高調のストローク長は有限だから。短くなったストローク長で各種入力に耐えられるだけの高いレートを持つメインスプリングであれば問題ないが、そうでない場合はダンパー本体の破損に繋がる。

メインスプリングを短くする必要が出てくる場合がある

現在のメインスプリングがギリギリの長さで収まっている車高調にサブスプリングを入れたい場合、メインスプリングの長さを変更する必要がある。例えば現在のメインスプリングが150mmで、自由長50mmのアシストスプリングをプリロードゼロで組みたい時は、メインスプリングを100mmに変更しないと車高調に収まらない。

メインスプリングの長さを短くすると、同じレートでも車の動きが機敏になったりトラクションがかかりづらくなったりする。またメインスプリングが短くなると許容ストローク(許容荷重)も短くなるので、うまく設定しないと最悪の場合メインスプリングの破損に繋がる。

ロール・ピッチ量が増える

高い旋回Gでコーナリングする時、外側のサスペンションは縮み、内側のサスペンションは伸びる。これがロール。ハイレートなメインスプリングで元々伸びも縮みも少なければ、当然ロール量も少ない。

ここで4輪全てにサブスプリングを入れて伸びストロークを増やした時のことを考える。外側はメインスプリングのみが効くので縮み量が変わらないが、内側は伸びストロークが増えた分だけよく伸びる。つまりシングルスプリングのときよりもロール量が増えやすくなる。

またハードブレーキングをすると、リアが伸びる分だけピッチ量が増えやすい。逆に加速時はフロントが伸びる分だけピッチが増えやすい。

セッティングが難解になる

メインスプリング×サブスプリングの組み合わせが無数にあるので、まずこれを考えるのが難しい。サブスプリングの作動長調整やそれによるメインスプリングへの影響、さらにその時々による減衰力調整など考えることが無数に増える。

乗り心地に違和感が出る

サブスプリングは基本的に1Gで線形密着する特性上、縮み側には影響しないが伸び側には強く影響する。またツインレートで合成ばね定数→メインばね定数への切り替わりがリニアではないので、シングルレートのときと違う乗り心地になる。

特に1~2kgf/mmぐらいのヘルパースプリングを入れたときには、ふわふわしたような感覚が出てくる場合がある。結果的に切り返しが遅いなど、キビキビした走りができなくなる可能性がある。

ロール剛性バランスが変わる

密着荷重の前後でレートが切り替わるという性質上、荷重が抜けていく過程で必ずバランスが変化する。うまく設定しないとレートが切り替わるタイミングで急激なアンダーステア/オーバーステアが発生する可能性もある。

アシストスプリングセッティングは難しい

0.5kgf/mm前後の非常に柔らかいヘルパースプリングや、1kgf/mm前後のヘルパースプリングで伸びストロークを確保したいという目的であれば、セッティングはそこまで難しくない。柔らかければ柔らかいほどプリロードをかけた時の影響が少ないため。

ところがサーキットを速く走る目的でハイレートなアシストスプリングを入れ始めると話は途端に難解になってくる。シングルレートスプリングで速さを追求したほうがずっと楽で簡単。どうしてもシングルでは目的の動きにならなかったときに試してみてはいかがだろうか。

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