車でサーキット走るのって結構楽しいんだけど、初めてサーキットを走る初心者の人にはものすごくハードルが高く感じられるのも事実。実際そんなことないし、フリー走行なら数千円払えばだれでもすぐ走れるんだけど、そこに向けていろいろ準備しなきゃいけないように感じてしまう人が大半だろう。
サーキット走行に向け本当にやるべきことは点検だけ。できるならプラスして油脂類の交換とブレーキパッドのグレードをちょっと上げるぐらいで十分なんだが、多くの人がサーキットを走るならハイグリップタイヤが必要になるようなイメージを持っている。そんなことはないんだよということをここでは伝えたい。
ハイグリップタイヤは履かなくていい
初心者にハイグリップタイヤは必要ない。特にローコストで抑えたい、運転技術の向上を目指したい、とりあえずサーキットを走ってみたいという人には特に必要がない。
1.高い
ハイグリップタイヤは高い。銘柄やサイズにもよるが、RX-8だと4本で10万円近い金額がかかるのはざらだ。そもそも車の運転技術ってのは、ガソリンとタイヤをたくさん使えば、効率の差はあるものの自ずとうまくなるもの。ガソリン代を下げるのは難しいが、タイヤ代を減らすことはできる。よほど財布に余裕があるならまだしも、運転がうまくない時期にコストをかけてもしょうがない。まだサーキット走行にハマるかもわからないのだから。
2.減りが早い
ハイグリップタイヤというものは往々にしてトレッド面のゴムが柔らかい。そもそも新品状態での溝が浅かったりするし、サーキットを走って熱が入ればみるみるなくなっていくし、街乗りでも一般的なタイヤよりも減るスピードは速い。気が付いたら内側がすってんてん、なんてよくある話だ。これを嫌って街乗りタイヤとサーキット用タイヤを分ける人がいるが、サーキット初心者なのに走りに行く前にわざわざタイヤ交換をしたがる人なんてそうそういないし、そんなめんどくさいこと僕だってできればしたくない。
3.初心者だとタイムが変わらない
断言するが、サーキット初心者がハイグリップタイヤを使おうが街乗りタイヤを使おうがタイムにはほとんど影響がない。これはもう単純な話で、技量がないからタイヤや車の性能が引き出せないのだ。よほど直線が速い車とかでない限り、サーキット初心者なら普通車だろうが軽自動車だろうがミニサーキットでのタイムなら全く差がない。現状の技量=タイムであり、そこに車やタイヤの差が表れるのはまだ先の話。
4.グリップの抜ける瞬間が急に訪れる
ハイグリップタイヤの場合、その強大なグリップゆえにグリップが失われる瞬間は急にやってくる傾向にある。かなり極端に表現するなら、乾燥路面から突如氷結路に入ったようなものだ。さすがにそこまでではないものの、車の動きが急激に変化するのでそれに対処するのは慣れていないと難しい。そもそもその領域まで初心者が使えるか、と聞かれれば使えないのだが、次の理由から一時的に使ってしまうことがある。
5.多少無理しても曲がってしまう
グリップが高い場合、適当なことをしても車がコーナーをクリアできてしまうことがある。コーナーでスピードを落とし切れていないのにハンドルを多めに切れば曲がれてしまうことで、突っ込みがちなドライビングになってしまう。初心者はまず基本的な動作や考え方、車の挙動を学ぶべきだ。
6.車への負担が大きい
車的に無理な動きをタイヤによってしてしまった結果、そのしわ寄せは車にやってくる。サスペンションやボディの痛みが激しくならざるを得ない。これはうまいドライバーでも起きてしまうことなので初心者ならではのことではないが、ローコストでサーキットを楽しむという観点からは望ましくない。
結論:ハイグリップタイヤは初心者の技術向上につながりにくい
コスト面から言えば、ハイグリップタイヤを買ったおかげでサーキットを走るための走行料やガソリン代を払えなくなったとしたら本末転倒。ドライビング面から言えば、何となくでも走れてしまうハイグリップタイヤは基本動作を覚えるためにはあまりよろしくない。
ハイグリップタイヤにもメリットはある
サーキットを走るほとんどの人がハイグリップタイヤを使用しているのだから、もちろんたくさんのメリットがある。しかしここでは、タイムが出るとかそういうメリットではなく、初心者にとってのハイグリップタイヤのメリットを書き出していく。
1.止まる
なんてったってこれが一番のメリットだ。グリップが高い分だけ止まる。車の挙動が乱れてパニックになったとしても、とりあえずブレーキを全力で踏めば、ABSの有無にかかわらずハイグリップでないタイヤよりも短い距離で止まれる。ハイグリップタイヤは安全を買うことができるのだ。
2.トレッド剥離がほぼない
ハイグリップタイヤはグリップ力を高めるために、排水用の水があまり彫られていない。このため、タイヤがボロボロになってしまうことが少ない。剥離してしまうとタイヤバランスが崩れるだけでなくパンクやバーストの危険性が高まる。ただ、一般的なタイヤでも適正な空気圧で走りさえすればトレッド剥離を起こすようなことはあまりない。タイヤを長持ちさせるためにも空気圧の管理はしっかりと行おう。
3.かっこいい
割とどうでもいい理由だけど(笑)、走りに力を入れているような印象を与えることができる。それで本人のテンションが上がってサーキットに行きたくなるのであれば、これは大きなメリットだろう。
セカンドグレードスポーツタイヤをお勧めする理由
ハイグリップに対してここではローグリップタイヤという言葉を使いたい。が、とにかく安いタイヤという意味ではなく、あくまでセカンドグレードのスポーツタイヤのことだということを念頭に置いていてほしい。
1.安い
これが一番のオススメする理由。とにかく安い。もちろんサイズや銘柄にもよるが、4本買っても2万円以内なんてざらだし、軽自動車サイズならもっと安い。浮いた費用をガソリンやエンジンオイル、サーキットの走行料金、そしてフルバケや4点シートベルトなどの安全装備に費やせばガンガン走れるしどんどんうまくなる。タイヤが減っても気軽に交換できるので、初心者のみならずいっぱい練習したい人にもお勧めできる。
2.限界がハイグリップに比べて低い
バイクレースの世界ではよく言われるらしいが、「100km/hで起こることは50km/hでも起こる」という言葉があるらしい。数字は適当。必ずしもそうとは限らないのだが、一理ある。そもそもタイヤのグリップが高かろうが低かろうが、ブレーキを踏んでハンドルを切ってアクセルを踏むというコーナリングの基本動作は何ら変わらない。それを50km/hで行うか100km/hで行うかの差でしかない。もちろん、ローグリップだからってそこまで極端に遅くなるわけではないが。
また限界が低い分だけ流れ出しも穏やかなので、扱いやすい。タイヤの限界領域での車の動きは、グリップの大小にかかわらずほとんど変わらないので、練習には最適だ。
3.街乗りとサーキットを同じタイヤで走れる
別にハイグリップタイヤで街乗りしても何ら問題はないのだが、減りも速いしなんだかもったいない気がする。その分、安いローグリップタイヤならサーキットを走ってそのまま街乗りに使っても心が全く痛まない。何せそもそも街乗りようのタイヤなのだから。持ちもハイグリップよりはいいし、履きっぱなしでいいというのは楽だ。
4.無理すると曲がらない
2.の限界が低いことと関連するが、グリップが低い分だけちゃんと操作しないと曲がらないし止まらない。しっかりとブレーキを踏む、フロント荷重を確かめるようにハンドルを切る、リアタイヤのグリップを確かめながらアクセルを踏む。すべてのステップを慎重に行う必要がある。ハイグリップタイヤであれば何となく曲がっていたのに曲がらなくなるので、今までハイグリップを使っていた人には運転を見直すきっかけにもなる。どのタイミングでタイヤの限界が来ているのか、これを知るためのセンサーも鍛えることができる。
5.車への負荷が少ない
めちゃくちゃにブレーキを踏んだって止まらないし、急にハンドルを切ればフロントタイヤがグリップを失うだけ。ハイスピードなコーナリングをしようものならタイヤが流れていく。これらはすべてハイグリップと比較した場合の話だが、その分車への負担は抑えられる。サスペンションの消耗も少ないし、ブレーキへの負担も軽い。結果コストが抑えられるのだ。
結論:ローグリップタイヤは運転技術向上につながる
値段が安い分だけほかの走りに関する部分にお金をかけることができるので、走行の機会を増やすことができる。さらにローグリップなタイヤはちゃんと運転しないといけないため、しっかりとした技術が身につく。
ローグリップタイヤのデメリット
もちろんデメリットもある。これは基本的にハイグリップタイヤのメリットの逆だが、安いタイヤならではの特徴もある。
1.止まりにくい
ハイグリップタイヤと比較した場合、制動距離が伸びる傾向にある。これは仕方がない。ただ、そもそもコーナリングできるスピードが低く、また流れ出しも穏やかになるので、早い段階で危険と判断しやすいのも確か。
2.熱ダレしやすい
連続走行を行うなどでタイヤに熱が入りすぎることでグリップが減少する現象のことを「熱ダレ」という。ローグリップタイヤはこのあたりの対策を行っていない場合が多いので熱ダレしやすい。ただ、初心者の場合運転が安定しないため、熱ダレしたからタイムがでない、なんてことはほぼない。熱ダレしようがガンガン練習したほうが速くなる。
3.横方向の剛性が低い
コスト削減のためにタイヤ内にあるワイヤーなどがハイグリップタイヤに比べて少ない場合がほとんどで、このために特に横方向の剛性が不足しがち。タイヤがヨレるという現象が起こる。しかし、特殊な運転を行う必要はない。多少ハンドルに遊びがあるように感じられるかもしれないが、適正な空気圧に保っておけば問題ない。
4.トレッドが剥離する場合がある
ハイグリップタイヤと異なり排水性を重視した溝が切られている場合がほとんどなので、ブロック飛びが起こる場合がある。ただ、よほどの粗悪品でない限りスポーツタイヤなら適正な空気圧に合わせておけばあまり発生しない。
総括:初心者はローグリップタイヤで練習すべし!
速くなる一番の方法は練習すること。それにはコストを抑えて練習の機会をなるべく多くとるしかない。また基本的な運転方法、そして限界値を知る自分自身のセンサーを鍛えることができるローグリップタイヤはまさにサーキット初心者にうってつけだ。最近サーキット走行もマンネリ化、また技術の向上に限界を感じてきた中上級者にも、運転を見直すきっかけや新しい刺激を受けるいい機会になる。いつも買うタイヤ1本分の値段で4本買えることもあるローグリップタイヤでどんどん練習してほしい。
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