車高調を購入して早々、車体に組みつけもせずに分解してしまった。それはそう、このBLITZ ZZ-Rがどれほど使えるものなのかを調べ、そして僕が主な遊び場としているミニサーキットをより速く走るために必要なスプリングを選定するためだ!
有効ストローク長を測定する
ストローク長を測定にするには、太古の時代(?)からロッドにタイラップを巻いて行うのがいいとされる。いや別にバンプラバー使ってもいいんだけど。
分解したダンパーにバンプラバーないしタイラップを巻きつけ、ロッドを一番奥まで押し込む。押し込んだ後ロッドは(ショックが抜けていなければ)自然と最大長まで伸びるのでダンパーからバンプラバーまでの距離を測る。これがこのダンパーのストローク長だ。
またダンパーからCリング固定部分までの距離を測る。これがロッド長となる。
ロッド長からストローク長を引くと、デッドストローク長が出る。ロッドとして存在はするが、実際にここまではストロークしない部分の長さがこれ。
またバンプラバーの全長も測る。
どうでもいいがこのバンプラバー、結構な硬さがあるので、バンプラバーを使ってスプリングの代わりをさせる裏技セッティングには向いていない。そもそも短いから向いてないけど。
こうして割り出された数値を書くと、こうなる。数学的にいかがなものかって表記もあるけど、わかりやすさを重視してるので勘弁してください。
単位:mm | フロント | リア |
---|---|---|
L:ロッド長 | 114.0 | 103.5 |
S:ストローク長 | 102.0 | 91.5 |
DS:デッドストローク長 DS=L-S |
12.0 | 12.0 |
B:バンプラバー長 | 36.0 | 36.0 |
B’:有効バンプラバー長 B’=B-DS |
24.0 | 24.0 |
S’:有効ストローク長 S’=S-B’ |
78.0 | 67.5 |
この中で最も重要なのは有効ストローク長(S’)で、それはこれからの計算に利用する。また有効バンプラバー長(B’)が24mmあることから、この車高調は完全に底突きする前にバンプラバーにより24mmの安全帯を設けていることがわかる。底突きを起こすとショックアブソーバーが壊れてしまうから、壊れないような設計になっている。
耐荷重(許容G)を計算する
さて、有効ストローク長が出てきたので、ZZ-Rの吊るし状態の耐荷重が計算できる。要するにどれだけハードに走っても大丈夫なのかがわかる。これには、あと前後の軸重と、サスペンションのレバー比が必要になる。軸重は車検証に記載され、レバー比はHKSのサイトで確認できる。
フロント | リア | |
---|---|---|
車重(kg) | 1310 | |
w:軸重:2輪(kg) | 690 | 620 |
w’:軸重:1輪(kg) w’=w÷2 |
345 | 310 |
lr:レバー比 | 1.45 | 1.00 |
d:ダンパー荷重(kgf) d=w’×lr |
500.25 | 310 |
S’:有効ストローク長(mm) | 78.0 | 67.5 |
sr:バネ定数(kgf/mm) | 8 | 6 |
レバー比とは何ぞやという人は、めんどくさいので自分で調べてほしい(笑)。単純に言えば、これはサスアームのどこにショックアブソーバーが取り付けられるのかによって決まり、RX-8のフロントの場合、タイヤにかかる力の1.45倍の力がショックアブソーバーにかかる設計になっている。
あと最後の要素であるバネ定数だが、ZZ-Rの吊るし状態のスプリングは、上の表にもあるようにフロントが8kgf/mmで、リアが6kgf/mmだ。バネが1mm縮むのに何kgの力が必要なのかがこれでわかる。
タイヤというのは車がコーナリングしたり、路面の凹凸を拾ったりして動くが、これが自重に対して何倍の力が入力されるのかを示すために重力加速度Gを使う。例えばRX-8の場合、静止している状態(1G)だとフロントタイヤ1本に345kgの荷重がかかっている。仮に凹凸を拾って500kgの力がフロントタイヤ1本に掛かったとすると、それは500kg÷345kg=1.45Gがかかったと計算できる。
さて、バネの縮み量は以下のようにして計算される。
これよりより、許容G(バンプラバータッチするG)は
で計算される。これより、吊るし状態のZZ-Rの許容Gは、
- フロント:1.25G
- リア:1.31G
と計算される。
はっきり言って吊るしとしては結構優秀。とりあえずそのまま組んでも静止状態ではバンプタッチしてないし(笑)。ちょっとした凹凸を踏んだらバンプタッチしそうだが、それさえ許容できれば街乗りで使う分にはこのままであんまり問題なさそう。
街乗り&ミニサーキット向けのスプリングを選定する
バネレートを決定する
ただやはりミニサーキットで走るには、このスプリングだとバンプタッチしてしまってあまり好ましくない。かといって硬すぎるスプリングを入れるとミニサーキットのスピードレンジでは使い切れないし、街乗りでは硬すぎて嫌気がさす。適度なレートを探っていく。
このためには先ほど使ったこの数式を利用する。バネの硬さ(バネ定数)を変えていったときに許容Gがどのように変化するかを計算して表に表すと、こうなる。
バネ定数(kgf/mm) | フロント(G) | リア(G) |
---|---|---|
6 | 0.94 | 1.31 |
7 | 1.09 | 1.52 |
8 | 1.25 | 1.74 |
9 | 1.40 | 1.96 |
10 | 1.56 | 2.18 |
11 | 1.72 | 2.40 |
12 | 1.87 | 2.61 |
13 | 2.03 | 2.83 |
14 | 2.18 | 3.05 |
15 | 2.34 | 3.27 |
16 | 2.49 | 3.48 |
17 | 2.65 | 3.70 |
18 | 2.81 | 3.91 |
19 | 2.96 | 4.14 |
20 | 3.12 | 4.35 |
適当に20kgf/mmまでの数字を出してみたが、実際RX-8で国際サーキット走ってる人でも F:14kgf R:10kgf ぐらいなようなので、ここまで計算する必要があったのかしら…。あと勘のいい人は気づくだろうが、国際サーキットに照準を当てた場合、硬めのバネを入れるためにもう少し有効ストロークの短い車高調を選ぶべきだということがこの表からわかる。
少々脱線したが、目安としてミニサーキットで遊ぶなら1.5G以上の許容Gが欲しい。実際そこまでかからないが、+αの余裕が必要だからだ。それで考えると、
- F:10kgf/mm
- R:7kgf/mm
であればよさそうな感じ。ただ、今回は気になるスプリングメーカーがあるのだが、そのメーカーは偶数のバネレートしか揃えていないのでリアに7kgf/mmのバネを入れられない。となると
- R:8kgf/mm
が確定。ではフロントは10kgf/mmでいいかというと、そうでもないと思う。上にもあるようにRX-8のサスアームのレバー比は、F:1.45 R:1.00 である。これはフロントショックアブソーバーの仕事量がリアよりも1.45倍も多いことを示している。では、RX-8のように前後の軸重がおよそ50:50で、かつFRレイアウトということを考えれば、フロントのバネレートはリアの1.45倍+αであるべきだろう。つまり8kgf/mm×1.45=11.6kgf/mmであるから、
- F:12kgf/mm
- R:8kgf/mm
が最適解だと求められる。これから先に関しては実際に走ってみてどうかをチェックする必要があるが、大体これで要求を満たせるバネレートが計算できる。
バネの内径(ID)を選ぶ
バネの内径(ID)は選べないこともないけど、基本選べない。BLITZ ZZ-RはID62(内径62mm)のバネを使う車高調なので、ID62の直巻きスプリングを選んだ方が早いし楽ちん。本当はもっと一般的なID65の車高調だとスプリングが選びたい放題になるし、ID62をID65に変換するスプリングシートも売ってるんだけど、今回はパス。
バネの自由長を選ぶ
バネレートと同じく大切なのがバネの自由長。これが長い場合と短い場合でスプリングの特性が結構変わる。一般的に、
- 長い→動きがゆっくりになりトラクションのかかりがよくなる
- 短い→動きが速くなりレスポンスが上がる
というように特性がでる。例えばアクセルオンで駆動輪のトラクションが抜けてしまうようなら、スプリングを長くすると解決するかもしれないし、S字の切り替えしでどうも遅れるという感じがあるのであればフロントの自由長を短くするといいかもしれない。
ただ、街乗りが主体であればできるだけ長いバネのほうが乗り心地がいいのと、基準としては吊るしのバネの長さに近い物を選ぶといい。あと短い場合、バネの耐荷重が不足してバネそのものが壊れてしまう可能性があるので注意が必要。
で、その自由長はRX-8用のZZ-Rの場合、
- F:200mm
- R:160mm
である。リアの160mmはあんまり一般的じゃない微妙な長さなので困る。基本汎用直巻きスプリングは1inch(≒2.54cm)刻みなのだ。
あとZZ-Rはフロントにはたっぷりと余裕があるものの、リアにはスプリングを伸ばせる余裕があまりない。推奨状態だとあと23mmしか余裕がないので、これ以上長いバネを使うと車高調整機能が失われてしまう。それはちょっともったいないので、あんまりやりたくないが少し短い6inchないし150mmのバネを使うことにする。フロントはそのまま200mmでOK。今のところ特に短くする必要がない。というわけで
- F:200mm(8inch)
- R:150mm(6inch)
に決定。ちなみにBLITZやラルグスの補修部品なら様々な長さのバネを選べるので、160mmもラインナップにある。
スプリングの最大許容ストローク量を超えないようにする
ここまででスプリングの選択はおおよそ完了したが、もう一つ重要な問題がある。それがスプリングの最大許容ストローク長である。これ以上スプリングをストロークさせてはいけないという限度であり、それ以上縮ませるとヘタリが発生しスプリングの寿命を縮めてしまう。まともな直巻きスプリングメーカーであればホームページに必ず記載してあるので、使用したいバネの最大許容ストローク量を確認し、それが想定される入力よりも小さいことを確認する。
今回の場合はミニサーキットで1.5Gの入力があるので、スプリングのストローク量は
より、
- F:500.25×1.5/12=62.53mm
- R:310×1.5/8=58.13mm
である。これよりも許容ストロークの長いスプリングを選択する。特に自由長の短いスプリングを使用したい場合は注意が必要で、もし許容量が足りない場合はレートアップが必要。
MAQSのバネを購入
というわけで、買ったのはMAQSのスプリング。すでに書いたように、スペックは
- F:ID62 / 200mm / 12kgf/mm
- R:ID62 / 150mm / 8kgf/mm
だ。MAQSを選んだ理由は、その安さと色が派手でかっこいいから(笑)。ID62のスプリングがラインナップされてるのもうれしい。正直写真で見る限り巻き数が少ないのでどうかなーとは思っているが、到着が楽しみ。
スプリングが到着!車高調に組み込む
MAQSのスプリングが到着!ZZ-Rに装着しました。
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