つい先日、当ブログへこのような問い合わせをいただきました。
まだ走行会に数回参加した程度の初心者です。普段使いとサーキット練習用の車を探しています。とにかくテクニックを磨きたいのでノーマル状態でランニングコストをかけずに走りたいです。
条件をいろいろ当てはめた結果、RX-8の前期ベースグレード(5MT)が魅力的に思えました。中古価格も安く、ワンオーナー車も見つかり、ホイールサイズが16インチなのでタイヤ交換の頻度を考えてもメリットがあるように思いました。
しかしネットでは前期型への否定的な意見が多く、自分の選択が正しいのか不安に思っています。無理をしてでも後期のTypeSやTypeRSを選んだ方がよいのでしょうか?
実際に前期ベースグレードに乗ってサーキットを走っているひゃっかいだん様にアドバイスをいただきたいです。
Kさん(仮名)からのお問い合わせ(抜粋)
RX-8 STDはサーキットを低コストで楽しめるか?
質問をざっくりまとめれば、
「RX-8の前期ベースグレードは低コストでサーキットを走れますか?」
という話である。確かにRX-8は前期後期で多数のグレードがあり、最廉価のベースグレード(以下STD)でサーキットを楽しめるのかは気になるポイントかもしれない。しかし、これは当ブログのサブタイトルである
安く手軽にモタスポが楽しめるなら、それでいいのだ
に合致した話であり、事実僕がもう長いことRX-8の前期STDグレードでサーキットを楽しんでいることからも、結論はYESでしかない。ただそう結論だけ言っても仕方がないので、その理由を一つ一つ説明していこう。
大前提:RX-8はサーキットを楽しむのにベストな選択肢の一つ
まず大前提として、RX-8という車はグレードを問わずサーキットを楽しむための車としては最適な選択肢の一つであることは間違いない。その理由としては、
- ノーマルでも走行性能が高く、曲がる・止まるのバランスが高次元でまとまっており、素直に走る
- タイヤ・工具・ヘルメット等の用品を全て積み込むことができる秀逸なパッケージ
- 他の2LクラスFR車と比較すると安価に購入できる
- そこそこの販売数があるので、中古パーツも流通している
- 265/35R18などのメジャーサイズを余裕で飲み込める足回りの懐の深さがある
- チューニングの選択肢もそこそこある
が挙げられる。特に1番目と2番目はもっと世間から評価されてもよい部分だ。メカニカルグリップが高く、ハンドルを切れば素直に曲がっていくのは気持ちがいい。またこのサイズの車で、トランクルームを一切使用せずにサーキットサイズのタイヤを4本車内に詰める車が他にあるだろうか?さらに車を弄りたくなっても、末永く楽しめると思う。
難点としては車重が少し重く、またハイパワーを臨もうと思うと難しいところがあり、さらにロータリーエンジンの寿命が気になる、といったところだろうか。またシルビア系に比べると中古パーツの流通量は少なく、他社主流用できるパーツもないので、中古パーツで絶対的に安く納めたい!というのは難しいかもしれない(ただ最近のシルビアの値上がり方は異常なので、もはや車両価格が高すぎてオススメしがたい)。
STDとそれ以外のグレードの違い
大まかなグレードによる違いを載せる。
グレード | 前期STD | 前期TypeS | 後期STD | 後期TypeS |
エンジンポート数 | 4ポート | 6ポート | 6ポート | 6ポート |
エンジンパワー | 210PS | 250PS | 215PS | 235PS |
最高回転数 | 7500rpm | 9000rpm | ? | 9000rpm |
ミッション | マツダ製5MT | アイシン製6MT | マツダ製5MT | マツダ製6MT |
ホイールサイズ | 16-7.5J+50 | 18-8J+50 | 17-7.5J+50 | 18-8J+50 |
タイヤサイズ | 225/55R16 | 225/45R18 | 225/50R17 | 225/45R18 |
オイルクーラー | 1つ | 1つ | 1つ | 2つ |
一応後期STDも載せておいたが、このモデルは1年ちょっとしか販売されていないようなので、あんまり玉が出てこないかな~と思う。
前期STD最大の違いはエンジン。特に前期STDだけ吸気ポート数が2つ少ないため、将来的なパワーアップを望むのは難しい。
ミッションは前期6MTだけアイシン精機製で、アルテッツァやS15シルビアに乗っているものとほぼ同じものになる。
ホイールサイズにも違いがあり、前期STDだけブレーキローターが小さく16インチが装着可能。またリアサスペンションのジオメトリーが後期では改良されている。
前期STDは安く程度の良いものが見つかる
前期STD最大のメリットは価格。走りを意識する人はTypeSを選択することもあって、人気はTypeSの方が高く、また走行距離も伸びているものが多いため、エンジンOHを前提と考えたほうがよい場合が多いような印象。
後期はグレード問わずまだまだ新しい部類になるため、基本的に前期より値が張るものが多い。特に限定車のスピリットRなどは高い。
対しSTDはそのような目的の購入者が少ないのか、走行距離も比較的短めで、かつワンオーナー車も意外と見つかる。初期投資を抑え、手軽な価格で購入しやすいのが前期STDの魅力だと言える。
絶対的パワーは望めないエンジンはTypeSの方が優位だが…
前期STDのエンジンは吸気が4ポートであり、絶対的なパワーに関してはTypeSには勝てず、またTypeSと同等のパワーをチューニングによって得ることも難しい。もちろん全てTypeSに乗せ換えるという手段もなくはないが…。また官能的な部分として、TypeSの9000回転まで回る気持ちよさはSTDにはないので魅力的。STDは高回転域での回り方が若干鈍い。
ただ今回の目的と照らし合わせたとき、RX-8同士で競いたいのではなく単純に腕を磨きたいのであれば、エンジンパワーなんて必要ない。ゆえにSTDで全く問題ない。
また個人的な経験になるが、3000~4000km以内でエンジンオイル交換はもちろん、定期的なメンテナンスを行っていれば、走行距離が14万kmを超えた今でも特に何かエンジン回りでトラブルが発生したこともない。「ロータリーは壊れる」と言われるが、個人的にはそんなことはないだろうと考えている。もちろんパワーはだいぶ落ちていると思うが…。
また前期STDはエンジンオイルクーラーが一つしか装着されていない。これはコストダウンと最高回転数が低いことによるものだと考えられる。このため多少油温に厳しい面があってしかるべきとは思うが、油温計を装着していないので不明。僕は適度なタイミングでクーリングラップを挟めば問題ないと考えているが、心配ならオイルクーラーを増設すればよい。
ミッションはマツダ製5MTの信頼性が光る
残念ながらTypeSのアイシン製6MTは信頼性に欠ける部分が否めない。RX-8はクラッチ側の問題もあると言われてはいるが、やはりあのミッションの耐久性が高いとは考え難い。
対し5MTはRX-7 FD3Sに使用されているものと(中身は改良されているが)ベースが同じなので、RX-8のパワーで使う限りでは信頼性の高さが光る。経験から言っても、まともな状態のミッションオイルさえ入れておけばトラブルが発生したことはない。
16インチにこだわるのはよくない
前期STDはRX-8の中で唯一16インチホイールを履けるグレードなのだけども、残念ながらここにこだわるのはオススメできない。なぜなら225/55R16という純正サイズはスポーツタイヤとしてはメジャーではないため、選択肢が少なく他サイズに比べて価格が上がるからだ。さらに16インチのサーキットタイヤを探すと、今度は外径が小さいモデルばかりになってしまう。結果RX-8に16インチタイヤという組み合わせは少し難しいものがある。
なのでここはホイールサイズを17インチにアップして、サイズは17-8J+40前後を選択したい。225/45R17や235/45R17といったサイズが視野に入ってくるので、選択肢がぐっと増えてくるはず。またこのサイズのホイールは中古の流通も多いので、かなり手軽な価格で購入可能だ。
タイヤも上記サイズから選べば、セカンドグレードのアジアンタイヤで6000円/本前後で、そしてアジアンのハイグリップタイヤであれば10000円/本前後で購入可能。サーキットを走るとどうしてもタイヤの消耗具合が激しくなるが、国産にこだわらなければ比較的安価で楽しめる。
ローターのサイズアップは必要なし
前期STDは唯一フロントブレーキローターサイズが小さいのだが、TypeSのローターとブラケットを流用するだけでローターサイズを拡大できる。しかしこの必要は全くない。
純正状態でかなりブレーキバランスはよく、特にリアブレーキが有効に使えているのでブレーキでぐっと四輪が沈んでくれる。むしろリアが効き過ぎなのか、ブレーキパッドの減りがリアの方が早いのが気になっているぐらいだ。
後期は確かに気になるが…
後期の改良ポイントは様々あるが、その中でも個人的にはリアサスペンションのジオメトリー変更が気になる。特にリアショックアブソーバーの取り付け角度が改善されているのがいい。前期は特に車高調を装着したとき、微妙にショックアブソーバーに無理がかかるような角度になっているのが気になってしょうがない。
ただ2019年の現状で前期と後期の価格差は非常に大きく、その差を埋められるだけのメリットが後期にあるとは考え難い。ここは予算との兼ね合いになると思うが、最終的には見た目の好みで決めてしまってもいいレベルだと思う。
また後期の良いところとしてセルモーターの改良が挙げられるのだが、前期のセルモーターだからエンジンがかからないなんてことはない(かからない場合はエンジンが死んでいるか、プラグがかぶっている)。バッテリーさえ正常であれば問題なく始動するので、わざわざ後期対策品に変更する必要性は感じられない。
ランニングコストにグレード間の違いは無し
TypeSだから、STDだからといって、ランニングコストが大きく変化することはおそらくあり得ない。むしろTypeSのミッションやポート周りの動作不良が起きた場合のメンテナンス費を考えると、もしかするとSTDの方がメンテナンスが少なく乗れるのかもしれない。が、その辺は経験したことがないのではっきりとは断言できない。
消耗品としては
- タイヤ
- ブレーキパッド・ローター・フルード
- エンジンオイル・エレメント
- ミッション・デフオイル
- クーラント
- エアクリーナー
というように一般的なものしかない。ある程度の距離を乗ってくるとエンジンマウントやデフマウント、クラッチなどが消耗してくるが、それはどんな車でも同じこと。燃費は街乗りで8km/L、高速で10~11km/Lぐらいは走るので、スポーツカーとして考えれば割と普通。ただし前期はハイオク指定なので、レギュラーガソリンも可な後期に比べると若干割高感はある。
よく「ロータリーエンジンは1万kmでプラグ交換」なんて話も聞くが、今のところ約7万km使いっぱなしで不具合がないので、そこまでシビアになる必要もないのでは?と思っている。気になるなら5万kmぐらいでイグニッションコイルと一緒に交換すればよいのではないだろうか?イグニッションコイルも熱が入って表面が白化するとダメっていうけれど、表面のコーキングが熱で白くなったからといって中身のコイルがダメになってるとは限らないし、心配しすぎな気がする。
前期STDは遅いのか?
どんなに前期STDを納得して買ったとしても、「TypeSだったらもっとタイムが出たのかも…」と思ってしまうのは仕方がない。しかし安心してほしい。前期STDだって十分に速い。
ライーザさんの運営するRX-8最速ランキングというWEBサイトを覗いてほしいのだが、美浜サーキット・作手サーキット・モーターランド鈴鹿のいずれでもそこそこのタイムを僕は記録している。鈴鹿ツインGコースでは目立つ結果を残していないが、タイヤもKENDA KR20AだったりZESTINO ACROVA 07Aだったりと格安タイヤで走っていることを考慮しても、決して前期STDが遅いとは言い難い。
ドノーマルでもガンガン走れる
僕は2017年の夏に車高調を入れたのだが、もちろんそれまでは完全にノーマルと言っていい状態で走っていた。タイヤとホイール、そして安全のためにブレーキパッドは交換していたが、それ以外は完全に純正そのものだ。
その状態+街乗り用のスポーツタイヤであるATR-SPORT2を履いても、これだけの走りは可能。むしろ純正サスの車高や足の柔らかさによって、ロール・ピッチが分かりやすいので、これ以上ないほどに運転の練習に向いている。
結論:RX-8前期STDでサーキットを楽しむのはオススメ
というわけで結論は最初にも述べたように、RX-8の前期STDグレードでサーキット走行を楽しむのはオススメ。ランニングコストに関しては他グレードと比較しえても正直そこまで変わらないと思うが、初期投資の安さは魅力的であり、かつ高級グレードにない魅力も持っている。
ランニングコストの安さだけを考えるなら、軽自動車やマツダロードスターあたりのコンパクトカーで走ることをお勧めしたい。特にタイヤサイズの小ささゆえに、タイヤの価格が非常に安く抑えられるのが大変に魅力的だ。車体も軽量なのでタイヤやブレーキの負荷も少ない。
ただ、それなりのパワーと車格、そして実用性を兼ね備えていることを考えたとき、RX-8はベストチョイスと言えるだろう。そしてその中で前期STDは高いコストパフォーマンスを誇る。予算を抑えつつ、その中でも高い満足度を得たいのであれば、RX-8前期STDという選択に誤りは無いのではないだろうか。
コメント
記事の内容の質問をさせて頂いたKです。
この度は突然の質問だったにも関わらず
親切に対応して頂きありがとうございました。
またこのような記事にまでして頂いて本当に感謝しております。
質問に次ぐ質問で大変恐縮なのですが、
中古のRX-8を選ぶに当たってのアドバイスを頂けないでしょうか?
例えばですが
・これだけは気を付けておいた方がいい点
・こんなRX-8はお勧めだというような点
・こういう条件(走行距離やワンオーナー車など)だったらオススメ
・こんな店だったら購入がオススメ、逆にダメな店
など、どんな事でもいいので何かアドバイスを頂けたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
K.mulbeeryさん
今回はブログへのお問い合わせをありがとうございます。
中古のRX-8に関してですが、よく言われるエンジンの掛かりはチェックしたほうがいいかもしれませんね。
バッテリーの状態にもよりますが、掛かりが悪いものはエンジンが消耗している可能性が否めません。
諸条件については、前オーナーの使い方やメンテナンスによっても大きく変化するので、運の要素が大きいと思います。
例えばロータリー専門ショップで購入するのは確かに失敗の少ない方法ではあるとは思いますが、それぞれに様々な信条や大人の事情があるので、おそらく僕のような限界低コスト派とは違った意見が出てくると思います。
それはそれで参考になる部分があると思いますので、もしお近くにあるなら相談してみるのもいいかもしれませんね。
ただ整備スキルが無い場合は、ノーマルで走るといっても定期的なメンテナンスからブレーキパッドやフルード交換、そして車検といった部分で整備工場にお世話になる必要があるわけですから、それなりに信頼できるお店を見つけるのが一番だと思います。
そこは車両にお金をかけない分、コストをかけるべき部分だと考えます。
いずれにせよ中古車を購入する以上、どんな車であれ完璧な一台など存在しません。
なのであまり深く考えすぎると、いつまでたっても肝心の車両を購入できないという事態に陥りかねません(笑)。
K.mulbeeryさんがこれから良い一台に巡り合い、サーキットを楽しむことを期待しています。