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「サーキット用ホイールにはゴムエアバルブ!」は正しいのか?エアバルブの耐速度などを調べてみた結果

サーキット走行を行う人は大体社外のアルミホイールに変えているケースが多いと思うが、それに付属しているエアバルブについて何か考えたことがあるだろうか?

……普通は無いと思う。

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サーキットにはゴムエアバルブ!という通説

もしかしたらこんな話を聞いたことがある人がいるかもしれない。

「サーキット走行ではスピンしてグラベルに突っ込むことがある。その時に金属製のエアバルブは石などに当たって折れる危険性があるので、サーキットを走るならゴムのエアバルブがいい。」

ゴムバルブというのは一般的な車に装着されている、全体がゴムで覆われているバルブ。正式名称はスナップインバルブという。金属バルブは社外ホイールに良く用いられているアルミやスチールで出来たエアバルブの事。こちらの正式名称はクランプインバルブ。ゴムバルブの方が根元がしなやかなのに対し、金属バルブはナットで締め付けられているのでバルブがぶれない。

言われてみればなるほど、金属バルブがグラベルの石に当たったら折れる気しかしない。金属バルブの方が見た目もかっこいいし、軸がぶれないからエアも測りやすいのだけど、そういうことじゃ仕方がない。サーキット用のホイールはゴムバルブにしなきゃ!

…本当に?

ゴムバルブは耐速度が低い

あまり知られていない話だが、各種バルブにはそれぞれ使える範囲が規格で定められている。一般的なもので、参照したWEBサイトによるとバルブごとの空気圧・最高速度・耐熱温度は以下の通り。

ゴムバルブ金属バルブ
最高タイヤ空気圧400kPa1000kPa
最高速度210km/h約300km/h
耐熱温度-40~100℃-40~120℃
参照:https://www.alligator-ap.jp/feature/2/

え?ゴムバルブって210km/hまでしか使えないの?

考えてみればゴムバルブはホイールの回転方向に対して斜めに生えているので、速度が上がれば上がるほど遠心力でリム側に引っ張られて、バルブの穴に対して斜めになってしまう。確かにゴムの厚みだけでシールしているゴムバルブは、ナットで締めこむ金属バルブに比べて耐速度が低くなって当然だ。

210km/hを上回る速度を出せる車両では、その状況下でシール性能が劣るゴムバルブを使うのは危険。しかもゴムバルブは耐熱温度も低く、ブレーキやタイヤの熱により高温に晒されるサーキット走行で使うのはベストとは言い難い。本当は金属バルブを使うのが良いのか…?

…ところで、耐熱温度100℃ってサーキット走行じゃ全然足りてないし、金属バルブの120℃だってかなり怪しい。この規格、本当なのか?そもそもホイールやタイヤ外形によってバルブに掛かる負荷が変化するというのに、耐速度なんてあやふやすぎないか?「ゴムバルブ付けて300km/h出したらスローパンクチャーを起こした」なんて話は聞いたことがない。怪しい。

そこでJIS規格を調べてみたが、耐速度や温度についてはよくわからなかった。ただエアバルブを製造する太平洋工業株式会社の注意書きに、

チューブレスバルブは車両・ホイールに適合したものを使用してください。
・交換時には新車または新品のホイールに装着されていたものと同じタイプを使用してください。
・空気圧が 450kPa を超えるタイヤ、速度が 210km/h を超える車両にはスナップインタイプではなく、クランプイン(ナット締め)タイプを使用してください。

参照:太平洋工業株式会社 チューブレスバルブを正しくご利用いただくために(pdf)

とあった。どうも最高速度の制限については本当のようだ。あとエア圧が高いトラックでは金属バルブ一択だそうなので、空気圧の制限についても具体的な数値はさておき正しいらしい。

ガチのレーシングカーがゴムバルブを使ってる件について

じゃあ実際にサーキットしか走らない人たちは何を使っているのだろう?気になったので「スーパーGT ホイール」で画像検索してみた。スーパーGTは国内最高峰のツーリングカーレースなので、彼らが使っているバルブが間違いなくサーキットに向いているはずだ。

著作権の問題があるのでどんなものがあるのかは各々で調べてほしいのだが、どう見てもゴムバルブ装着車両の方が多い。しかも特殊な感じのものは無く、その辺の街乗り車にも装着されていそうな一般的なゴムバルブばかりだ(バイク用のショートバルブに見えるものもある)。金属バルブに見えるのはTPMS(タイヤ空気圧管理システム)付バルブだろう。

スーパーGTに限らず競技車両は頻繁にタイヤ交換する上に、熱などでエアバルブに掛かる負荷も大きい。金属バルブだとシールの交換などに時間やコストがかかるので、簡単に交換できてかつ安価なゴムバルブを使っているのではないか、と思われる。

余談:ゴムエアバルブにも種類がある

実はゴムエアバルブにも種類がある。L字型やトラック用などを含めればたくさんあるので省略するが、自動車用ホイールに使えるタイプで直型の物は、主に下の2規格が存在する。

それがTR413とTR412。TR413が一般的に使われるもので、TR412はスクーターやバイクなどで用いられるタイプ。違いは長さで、

  • TR413:全長42mm
  • TR412:全長33mm

と、TR412の方が9mm短くなっている。

レース車両では前述のグラベルにハマった時はもちろん、他者との接触時にバルブが当たって千切れることを防止するため、短いTR412を使うケースが多いようだ。またTR412の方が軸がぶれないので空気圧調整がやりやすいというメリットもある。

結論:好きな方を使えばよいのでは?

ラリー、ダートトライアルなどであればそこまで速度は出ないし、グラベルだと石などにヒットする可能性が高いので、ゴムバルブの方がいいに違いない。ジムカーナやミニサーキットぐらいであればどちらでもよいだろう。国際サーキットを走る人は規格上の耐速度の関係で金属バルブの方が良いとは思うが、スーパーGT車両がゴムバルブの時点で全く無意味な話のようにも思える。

というわけで僕の結論としては「好きな方を使えばよい」ということとなった。

かっこいいしエア調整がやりやすいのは金属バルブだが、値段は高い。ゴムバルブは耐速度の低さが気になるが、とにかく安価だしレースの世界でも普通に使われている。お財布事情や見た目で選べばよいのではないだろうか……。

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